夏の日、僕は君の運命を変える






大学の構内を歩きながら考える。

僕のことを知っている人を。

この大学内に入っている同じ高校からだと言う人は、筧さん・宍戸先輩・太田。

他に友達はいたかわからないけど、どっちにしても連絡手段がない。

事故の時壊れてしまったスマートフォンがあれば、何か手掛かりがあったかもしれないのに。



「はあ!?水樹が!?」



そこにいた誰もが、勿論僕も振り向いた大きな声。

聞き間違うはずない、太田の声だ。

声がした方に静かに向かうと、そこには太田だけではなく、筧さんと宍戸先輩もいた。

気付かれないよう、死角に隠れて話を盗み聞きする。




「声がでかいよ馬鹿!」

「す、すまん…。
でもまさか水樹があの場所にいたなんて」

「何か調べているみたいだよ。あの事故について」

「希和ちゃんと太田はどうするつもり?
春田が心ちゃんのことを知ってしまったら…」




……心、ちゃん?

聞き間違いかと思ったけど、宍戸先輩の口から出たのは心ちゃんだった。

同じ名前の人、いたんだ…。




「絶対自分のせいだって責めるでしょ…」

「そういえばあの日、春沢を誘ったのって水樹なんだよな」

「うん。
あたし心から春田…じゃない、奥村から告白されたとも聞いたよ」

「あの事故現場に俺の知り合いいたんだけど、凄かったみたいだよ。
春田…奥村か、心ちゃんの名前必死に叫んで。
自分と心ちゃんの立ち位置が逆だったら助かったのにって」

「春田が知ったら本当にマズいよね…。
自分が殺したとか言い出すかもしれないよ」



ズキン、と頭が痛い。

何を話しているのか全くわからない。

だけど…今話しているのは、奥村について。

奥村ってのは母の名字で、以前の僕の名字…。




「でも、俺思ったんだけど、水樹性格変わったよな」

「記憶失うと性格変わるって聞いたことあるけど、あそこまで変わるとはね」

「自分のこと俺だって以前言っていたし、あんなに柔らかくなかったよな」

「前はもう少しクールで…でも優しいのは変わりないよね」

「あと1番顕著なのが理系から文系だろ。
あれ、どういう心境の変化だったんだろうな?」

「え?太田なら知っていると思ってたけど」

「聞いても文系に興味が出てきたーとかって。
講義の間にも本読んでいるし。
本嫌いとか言っていたけど、本当変わったな。
ありゃもう別人だ」

「だからこそわかっちゃいけない。
知られちゃいけないの、あの事故のこと」

「触れないようにしておこう。春田の前であの事故は」



宍戸先輩が言い、ふたりはそれぞれ頷いた。



「……っ………」



はるさわ、こころ。

同じ名前の高校生2年生と関わっている。

かっちゃんってあだ名の人がいて、希和という名前の人がいて。

宍戸先輩はかっちゃんって呼ばれるのを嫌って、筧さんの下の名前は希和。

……偶然にしちゃ、出来過ぎないか?





< 103 / 131 >

この作品をシェア

pagetop