夏の日、僕は君の運命を変える
「……えっと。今、何て?」
「聞いてなかったのか」
「聞いていたけど…え?」
「そのままの意味だ」
「……」
「さっき、俺に聞いただろ。
誰かを好きになったことがあるかって」
「聞いた…うん、聞いた」
「俺は、2年になった時から、お前が好きなんだ」
「……」
「バスケ部員として筧に用事があった時に、筧と一緒にお前が話していて。
その時、初めて喋った」
「……覚えているよ」
2年になって、希和と話していたらやってきた見たことのない男子。
『バスケ部員の奥村だよ!』って希和が紹介していた。
『よろしく』って片手をひらりと上げた奥村の腕は、細身なのに筋肉がついていて。
その感じがかっちゃんに似ていたのを今でも覚えている。
「その時に、何か、惹かれて。
色々筧と混じって話しているうちに、良い人だと思って。
今回の席替えで席が近くなって、もっと話すようになって、好きだって気付いた」
奥村の顔は熟したトマト並みに真っ赤なのに、どもったりしないで、サラサラと文章を読むようにわたしへの気持ちを告げていた。
「勿論、俺は宍戸先輩に恋していたの知っているから、奪おうなんてそんなこと考えてはいない。
宍戸先輩は、俺の憧れの先輩のひとりでもあったし。
何より、宍戸先輩のことを話す春沢が、俺は1番好きだった」
どうして奥村も水樹くんも、サラリと言えるのだろう。
口下手なわたしには、ただただ羨ましいだけ。
「俺は、ずっと春沢のこと見てた。
バスケ部マネージャーの面談を受けようとしていたのも、試合に来ていたのも知ってた」
「え?面談受けようとしていたの…知っていたの」
知っているのはわたしより先に受けて合格した希和と、受けるのを止めたかっちゃんだけだと思っていた。
まさか奥村も知っていたなんて。
「春沢が顧問に面談受けませんって言っていたの、俺見てたんだ。
顧問、どうして受けないんだーってその後ずっと言ってた」
「……」
「まさか宍戸先輩が止めるなんてな」
「…きっとかっちゃんは、わたしより先に受けて合格した希和に、そこで惚れたんだよ。
かっちゃんはわたしがずっと好きだったこと知っていたから、わたしに入ってこられると困ると思ったんだよ。
だから、わたしが受けようとした時止めたんだよ」
「…それ、本人から聞いたのか」
「ううん。
でも言われた理由が“危なっかしいから”だよ。
マネージャーに危なっかしいとか関係ある?」
「試合に出るわけじゃねぇから、そこまで心配はいらないと思う」
「わたしはその時かっちゃんにまさか嫌われていると思わなかったから、何も聞かないで受け止めたけど。
わたしも本当はその時、奥村と同じように考えてた」
「…宍戸先輩も、自分の恋愛を成就させたくて必死だったんだろうな」
「…最初からわたしは、希和に敵わなかったんだ」
ぽろっと止まったはずの涙がこぼれる。
ふと奥村を見ると、奥村も辛そうな顔をしていた。