不機嫌なキスしか知らない



驚いて、もう一度列の後ろの、紘のいる場所をを振り返る。


紘は後ろの男の子と喋っていて、こっちを見ていなかった。

その首に巻かれた私のハチマキが、やけにキラキラして見える。





──ふと、紘が振り返って。


私の視線と彼の視線が絡まって。



それから、ふっと口角を上げて、やさしく笑う紘。



ドクン、ドクン、と心臓がうるさい。

ぎゅ、と手に持ったハチマキを握りしめる。



……圭太のことも、さっきまで悲しかったことも、単純だけどどこかに飛んでしまって。



頭の中には紘の右上がりの四角い字と、遠くから見た笑顔。




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