不機嫌なキスしか知らない



「紘、なんで、」



「……泣きそうじゃん、なんで?」





私の瞳を見つめて、紘が聞く。

答えなんてわかりきった顔で、私を見る。





「泣いて、ない」



「嘘つき。

──慰めてあげようか」




ゆっくり近づく唇。

紘の長いまつ毛が頬に影をつくって、薄い唇がやけに色っぽい。



麗奈先輩のことは慰めないのに、私のことは慰めるの?


今日は私のものって、どういうこと?


明日は麗奈先輩のものになるかもしれないの?


ねえ、ねえ、紘、どうして?





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