不機嫌なキスしか知らない
いつだって私は、きみに想ってるいろんなことを口に出せずに、無理やり笑顔をつくる。
「大丈夫だよ、圭太なら」
笑った八重歯が可愛くて、サッカー部のエースで、誰にでも人懐っこい幼なじみ。
そんな圭太のことを好きなのはもちろん私だけじゃなくて。
だからきっと圭太の好きなあの子も一緒。
圭太のこと好きにならない人なんていないよって、悔しいから私は絶対言ってあげないけど。
「紗和は好きな人できてないのかよ」
圭太揶揄うみたいに私に聞くけれど、その言葉に私の胸はじわりと苦しくなった。
「……いないよ。いても圭太になんか教えなーい」
「はー?俺はこんなに相談してんのに?」
「それは圭太が勝手にしてるだけでしょ」
いつも通りの会話、いつも通りの通学路。
きみが私の気持ちに気付かないのだって、いつも通りだ。