不機嫌なキスしか知らない
「ねえ、かけなおしても、」
「いーってば」
私の言葉がしつこかったのか、怒ったみたいにスマホをバッグに突っ込んだ紘。
「ほら、終わったなら早く出して帰るぞ」
全て解き終わった数学のプリントを指差して、紘が立ち上がる。
私も慌てて荷物をバッグにしまって、席を立った。
……一緒に、帰るのかな。
よくわからなくて戸惑っている私に、「早くしろよ」と急かす紘。
一緒に帰る、みたいだ。
職員室に直したテストを提出して、ふたりで階段を下りた。
少し前を歩く紘の背中を見つめる。
着崩したブレザーの制服も、ふわっとした髪も、気怠げな歩き方も。
格好いいけど近寄りがたい雰囲気で、今でも私が彼と歩いているのが少し不思議だ。