足踏みラバーズ

11



 こてんと首を傾げて顔は笑っていたけれど、言葉の端々に棘を感じて、体を固くしてしまった。


「……ごめん」

「んーん、いいよ」




 やはり頭にきていたのかもしれない。

その夜、蒼佑くんはひどく荒々しく体を重ねてきて、嫌だと言っても止めてはくれなかった。



誰かに見られるのを避けたいから、見えるところにはつけないでと口酸っぱく言っていたキスマークも、見える見えないなんて関係なく、あらゆるところにつけられた。



止めて、と言っても止めてくれない彼の伸びた襟足に手を差し込んで、引っ張るように反抗したら、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

そのあとは何度も何度も激しく揺さぶられて、気を失うくらいにぐちゃぐちゃにされた。





甘い恋人同士の夜とは程遠くて、彼と行為に及ぶ最中、マナーモードにしていない蒼佑くんの携帯がずっと鳴り響いていた。













「……美由紀、って誰?」


 クリスマスが程近いありし日、突然百合子ちゃんの口から発せられた。





「……見たの?」

「……見てない。そんなことしなくても、画面、名前出てるよ」

「……」

「いや、いいや。ごめん」



 踏み込んでくるわけでもなく、ひっきりなしに携帯の画面に表示される、その名前をじっと見つめていた。その後、何事もなかったように笑顔を見せてくれて、後ろめたさだけが大きくなっていった。







 初めてつき合った、おれにいろんな初めての経験をさせてくれた、彼女……もとい、高校の同級生の名前だった。








 美由紀は誰が見ても女の子を絵に描いた容姿の女性だと思う。



美容にも服装にも、それなりにこだわりがあって、きちんと努力するような人だけど、決して派手なわけではなく、どちらかというと地味なグループに属している子だと認識していた。

嫉妬もするし、他の女と話してくれるなと、きつくお灸を据えてきたのもこの子だった。



愛してる、なんて熱い感情を抱くことはなかったけれど、それなりに好きだと思っていたし、彼氏彼女らしくやることはやっていた。



頻繁にデートをしては、外見に似つかわしく刺激を求めるタイプだったのか、人前でキスをねだられることもよくあった。

うっとうしく感じることもあったが、彼女を拒むわけにもいかず、求められるがまま与えていた。




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