妖狐の花嫁






1週間ほどで妖の世界に戻ることになっていた俺は

人間の姿を術で装いながら
その間、毎日華と会っていた。




─── 一目惚れだった。





俺の妖力に寄せられてか、
華は迷子になる度にあの神社へやってきていた。



そして、別れる最後の日。





俺は華に『術』をかけ、『約束』を交わした。






───それが俺の 計画の始まり。








「……以前からその人間をここへ連れてくる準備を進めていたってわけか。」

「まぁね。
そのために父親の跡を継いで、五大神になってこの日をずっと待ってた。」







仁の言葉に 俺は薄い笑みを浮かべる。





狐のしきたりでは
女は18を過ぎなければ結婚ができない。



だから俺はこうして
華が18になるのを待ち続け

良いタイミングを見計らっていた。





全ては、ことが順調に進むように。








「華が狐になれば
ここの獣に襲われる心配も、妖力による影響も心配無くなる。
この世界でのご法度も守られるでしょ?」

「っ……。」

「咎めるものは何もない。
直に人間の臭いもここから消える。」








俺はそう言って立ち上がると

四神に背を向けて
奴らの家来たちの前も通り過ぎ

襖へと手をかける。




しかし
仁は納得いっていない様子で

険しい顔をしながら 俺に言葉を投げた。







「っ、その娘にも家族がいて居場所があるんだぞ!!
お前はそれを本人の意志も関係無く奪うつもりか…っ?!」







部屋に 仁の大きな声が響き渡って

周りの家来たちもビクッ、と体の動きを止める。




正義感溢れるその発言に
俺は笑みを浮かべるも、

後ろを振り返りながら


それを嘲笑うように 口角を上げた。








「華の意志…?
そんなの、もう昔から関係ないよ。」

「っ、な……!?」

「あの子はもう俺のものだ。
居場所も何も…もう必要ない。」







俺の言葉に 仁が顔を歪めるも

そんなの御構い無しに
俺は愉快に笑みを深めて、


そして彼らに背を向けて 襖を開ける。





俺はその言葉だけをその場に残して

華のいる部屋へ歩き出した。








(…どんなに華が泣いて嫌がっても
俺は絶対に側から離すつもりはない。)







今はまだ寂しくて
悲しくて恋しくて、仕方ないだろうけど



いつか必ず……俺の元に彼女はくる。







(…早く堕ちないかなぁ、華……。)








───早く堕ちて

俺がいないと生きていけない体になればいい。






俺はそう思いながら

華の待っているあの小さな部屋へと
足を進める。





しかし

近づくにつれて察する
彼女の『行動』に、俺は笑みを浮かべた。






「……逃げたな、華。
俺とかくれんぼでもするつもり?」







部屋の襖が小さく開いていて

その場に感じない華の気配に
俺はそう独り言を呟く。



…どうやら、ここから逃げたらしい。







(出ちゃダメだって言ったのに…いけない子だなぁ。)







俺は踵を返して

屋敷の中を探すために
再び足を進めた──。







【吟side END】
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