恋してバックスクリーン

寿彦さんの快気祝いということで、海津さんがおごってくれた。

「ありがとうございました。ごちそうさまでした。穂花、ありがとう。一週間お世話になりました!」

車の後部座席から身を乗り出すようにして、お礼を言った。

「いいよ。寿彦さんが浮気をしたら、いつでもうちに来て!」

穂花は冗談で言ったけれど、シャレになっていない。浮気と言う言葉が、胸に突き刺さった。

「寿彦が浮気なんて、できっこない」

……それが、浮気をしているんですよ。なんて、海津さんには言えるはずもなく、作り笑いを返した。

車で、寿彦さんが住むコーポに戻ってきた。四人でいるときは平気だったけれど、ふたりっきりになると、もう堪え切れなかった。

「莉乃ちゃん?」

肩を震わせて泣く私に、寿彦さんが声をかけた。泣いている理由は、言えない。もし、浮気をしていることを問い詰めて、別れることになったら?

一度、些細なことで別れたふたり。次はもう、修復できなくなる。そう感じていた。

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