恋してバックスクリーン

寒がりで、ものぐさな寿彦さんが唯一、夢中になれるもの。

正月が明け、慌ただしい毎日が始まった、最初の日曜日。一月の、寒風が吹く青空の下、快音が耳に響く。

「関さん、絶好調だね!」

職場の同期、多治見穂花がカイロを揉み、手を温めながら私に微笑んだ。大阪から横浜に異動してきて、友だちもいない私を、横浜支店の事務員である穂花が、彼氏の草野球チームの試合に誘ってくれた。そこでショートを守っていたのが、寿彦さん。

長身で、無口で、無愛想。ポーカーフェイスと言えば聞こえがいいけれど、なにを考えているのかわからない無表情。

小柄で、笑顔がかわいい人がタイプの私が、グラウンドで光を放つ寿彦さんにまさかのひとめ惚れをした。

そこからはとにかく押しに押しまくり、現在に至る。

「海津さんこそ!」

穂花の彼氏である海津涼介は、セカンドを守る。海津さんと寿彦さんは守備の要、二遊間コンビで仲がいい。穂花と海津さんのおかげで、私の恋はすんなり成就した。

寒い中応援した甲斐あり、寿彦さんが所属する青空スターズは九対二で勝利した。

「この後は、祝杯でもあげますか!」

青空スターズが勝った日は、四人で食事に行くのがお約束。穂花とこぶしをこつんとぶつけて笑いあった。



< 3 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop