恋してバックスクリーン
「誰から?」

席に着くと、珍しく寿彦さんが電話の相手を気にしていた。いつもは、気にもかけないのに。今日に限って、だ。

「お得意先さん。急な予定変更で、びっくりしたわ」

話がややこしくならないように、適当な嘘をついた。

「相手は、男?」

「だいたいお得意先さんは、男性が多いよ」

涼しい顔で切り返したけれど、背中からひと筋の汗がタラリ……。

「仕事以外の男、じゃないよね?」

なに? 寿彦さん。私の浮気を疑っているの? そっちこそ、浮気をしているくせに。

「お得意先さんやで?」

心中、穏やかではなかったけれど、笑顔で返事をした。

寿彦さんはそれ以上、なにも言わなくなった。私もなにも話せなくなって、小さな部屋は食事の音が静かに響いた。

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