恋してバックスクリーン
無愛想な男、家出をする

なんとなく、気分が沈んだまま、一日が過ぎていった。正直、飲み会なんて気分やない。浮気のこと、私を疑うこと。この二点を、勇気を出して解決すべきだ。

早く、早く、寿彦さんに会いたい。そんな気持ちで胸が張り裂けそうだった。

「莉乃! こっち、こっち!」

穂花が素早く、私の席を確保してくれた。職場の飲み会は、いかに早く、居心地のいい席を確保するかが重要だ。なるべく、セクハラおやじの隣は避けたい。

掘りごたつの座敷に、穂花と並んで座った。前の席には、穂花を気に入っていると思われる、私の同期が座った。彼氏がいると知っていながら、果敢に攻める、いまどき珍しい肉食系だ。

『困ったことに、あなたを好きになってしまったようです』

……あ。私の近くにもいた。嘘か本気か告白してきた、肉食系男子が。でも加茂さんって、女遊びが激しいみたいやし。きっと、いろんな女性をそうやって口説いているんやわ。私だけ、特別じゃない。

「莉乃っ、乾杯するよ!」

ぼんやりとする私に、穂花が声をかけてくれた。作り笑いを浮かべると、グラスを手にした。


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