恋してバックスクリーン

いつまでも、寿彦さんのことばかり考えてはいられない。仕事の予定は山積みで、それをひとつひとつこなしていかなければならない。

ありがたいことに仕事が忙しい。寿彦さんが入る余地なんて、ないんやから。

午前中、がむしゃらに働いて、お昼前に職場に戻ってきた。

「莉乃、お疲れ様。お昼、一緒に行こう?」

穂花が、淡々とした口調で私を誘った。もしかして穂花まで、私を疑っているのだろうか……。「うん」と、ため息のような返事をした。

職場近くの、イタリアンレストランに向かう。

「莉乃、いつの間に加茂さんと……」

席に座ると開口一番、そう言った穂花。穂花がそう思ったのなら、寿彦さんだって同じように誤解するだろう。私と加茂さんがなにかしら関係を持っている……って。

「違うよ」

冷静になって否定をすると、テーブルの上のお冷を、いっきに飲み干した。

「加茂さんとは、仕事で名刺交換をして。一度、一緒に食事をしただけ」

「仕事で関わっただけの人が、どうして飲み会の迎えに来るの?」

「それは、私が聞きたい」

ふぅー、とため息をつくと、穂花が店員を呼んで、ランチをふたつ、注文した。

「関さんが、涼介くんの家にいる」

……やっぱり。海津さんのところでご厄介になっていたか。

「なにがあったの? 関さんはなにも話さないみたいだけれど」

穂花は、私が浮気をしていて、それが寿彦さんにバレて、寿彦さんが家出をしたと思っているに違いない。

「……なにもないのに」

そう小さくつぶやくのが、精いっぱい。これ以上、なにか話すと確実に泣いてしまうから。

「なにもないのなら、いいんだけれど」

穂花は、なにかを察したのかそれ以上、口を閉ざした。


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