恋してバックスクリーン
無愛想な男、男らしさをみせる

青空スターズは勝てなかったけれど、加茂さんはふたりの仲を裂くようなことはしなかった。

私を好きやなんて。やっぱり本気で言ってなかったみたい。それに、私よりもっとかわいい女の子が、わんさか寄ってくるやろ? イケメンなんやから。

……それに比べて、寿彦さんときたら。私には目もくれず、ビール片手に野球観戦。女の子が寄ってくる要素は、ゼロ。

野球に夢中すぎて、私の話はイニング間しか聞いてくれへんし!

「なぁ、寿彦さん」

「んー?」

やっとこっちを向いてくれた。梅雨が明けた七月。ふたりは横浜スタジアムまで、横浜ベイブルースと神戸パンサーズの試合を観にきていた。

寿彦さんは神奈川生まれ、神奈川育ち。ファン歴二十五年。子どもの頃から横浜ベイブルースのファンだ。

そりゃあ私より、横浜ベイブルースが好きやろ! なんて、やきもちをやいても仕方がないけれど。

夏の夜は、ナイターに限る! なんて言いながら、寿彦さんがおいしそうにビールを飲んだ。浜風が吹く横浜スタジアムで飲むビールは、ビアガーデンで飲むそれと同じように、心地が良かった。

「私が隣におるの、知ってる?」

「うん」

返事だけすると、またグラウンドに視線を送った。

「たぬきが踊っているな」

「あれ、ハムスターやで」

「ああ、そうか」

イニング間のパフォーマンスが終わり、青いジェット風船が横浜の夜空を彩る。ふたりで空を見上げると、寿彦さんの隣にいられることを幸せに思った。


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