恋してバックスクリーン

「桜木町の方まで、歩こう?」

ふたり手を繋ぐと、夏の夜風に吹かれながら歩き出した。私は、この辺りのことをよく知らない。キョロキョロしながら肩を並べて歩く道。

「馬車道って、アイスクリーム発祥の地、だって」

いきなり馬車道の話? その前に馬車道って……この近くのことかな?

「へぇー、そうなんや」

なんとなく、お互いぎこちない会話になった。いいところで邪魔が入り(実際に邪魔だったのは、私たちの方だが)、もう一度、同じムードまで持っていくのが、難しい……というか。

口下手な寿彦さんが、なんとか会話の糸口を探してくれている。それはそれでうれしくて、私はしばらく黙ってみようと思った。

帰りの道も、会話も、今夜は寿彦さんにお任せしよう。

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