ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2

絶対に認めないから!

本堂に正座したまま2時間。
読経の声に合わせて経本を読み続ける。


念仏というのは実に不思議なものだ。
唱えれば心が浄化するするし、聞き入ってるとあれこれと迷いが生じる。


俺も純香も小さい時から聞かされたり、唱えたりしてきた。
ワガママを押し通そうとすれば、必ず仏様の前に座らされた。


薄目を開けて見つめる阿弥陀如来の顔を睨みながら、ワガママを言っちゃいけない理由を探せと言われる。

仏様の顔は無に近くて、その答えは自分の中にあるんだと言われてる気がする。


生きたいように生きるのは餓鬼と一緒だ。

自分のワガママを押し殺し、人の為に生きろと諭されてる様に見えた。



読経が終わり振り返ると、純香は疲れきった表情でボンヤリとしていた。

俺が線香を上げろと言ったら、ヨロヨロとしながら仏様の前に座った。


慣れた手つきで線香を上げ、少しだけ首を項垂れる。

頭の中で四、五回の念仏を唱える間を持ってから視線を上げると、慈悲深い顔をした仏様と対面する。



その御姿の中に答えがあるような気がする。


少なくとも俺の場合は、いつもそうだったように思う。





「私……」


目を仏様から離さずに唇を開いた純香は、澄んだ声を響かせた。




「認めませんから」


幾分毒が抜けた様な感じだった。

単純に疲れているだけが理由ではないと思う。


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