テレビの向こうの君に愛を叫ぶ

「ところでさ、どこ行こっか」


彼は白い壁に掛けられた時計を見上げた。

時計の針は9時を回ったばかりだった。


「えと…澪君の行きたいところで」


私は東京といってもあまりピンとくる場所がなかった。


「ふぅーん、じゃあどこにしようかな?」


唇をうーっとさせながら彼は斜め上を向いて固まった。


あ。

そういえば。


すっかり抜けきってしまっていたいくまるとの約束を私は思い出した。

元から断るつもりだったのをうっかり忘れていた。

ドタキャンになっちゃうけど、別にいいよね。

私は連絡先を交換した勢いでいくまるにメッセージを送る。



『ごめん、今日行けないや。また別の日に誘って』



あいつ、怒るかなぁ。

そんな私の目には唸りながら考え続ける彼。


私は彼の答えを待ちながら、好きな人の手作り料理を堪能した。




「ごちそうさまでした」


2人で手を合わせて声を揃える。

お礼に茶碗を洗うことを提案した私は、澪君のも一緒に重ねて台所に運ぶ。


「気ぃ遣わなくていいのに」


最初は私の後ろをついていた彼は眉を八の字にしていた。

そんな澪君をなんとか説得し、私はシンクのお皿を洗いだす。

洗剤の匂いまでいい香りなんだから、本当にアイドルってすごいなぁ。


「そういえばね、決まった!」


ヘアアイロンを温めながら澪君は台所の私に声をかける。

水の音が澪君の声を邪魔する。
水を止めると、私は顔を上げた。


「花屋敷行こう!」


花屋敷…。

行ったことないや。

遊園地だっけ?


私は頷くと、いつもの手際でさっさと皿洗いを終わらせた。
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