スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


「なんだ、いるのか?」


相馬先輩も興味があるらしく、口元を緩めながら問いかける。


「口うるさい猫なら、うちに」


……猫?

猫なんて飼ってないはず──


「おとなしい顔して、変なとこ強いんで困ってる」


──チラリ。

識嶋さんの視線が一瞬だけ私を捉えた。

まさかとは思うけど、それって私のことでは。

麻衣ちゃんが「え~、それ本当に猫ですかぁ?」と識嶋さんを覗き込むように首を傾げる。


「でも嫌いじゃないんだろ、その顔は」


小さく笑い、先輩が温くなったコーヒーを口に含めば、識嶋さんもカップに口をつけて。


「……まあ」


きまり悪そうな顔で答えると、仕事に戻ると言ってカップ片手にカフェスペースから出て行った。

ち、ちょっと待とう。

整理しよう。

識嶋さんが彼女のいるいないをハッキリ言わなかったのは、多分縁談の件が絡んでるからだ。

私がいつか恋人として役立たなければならない場合に都合が悪くならないように。

役に立たなくて良さそうなら、下手に嘘を広げないように。

ここまでは理解できる。

でも、今のは何ですか。

猫イコール私だとして、識嶋さんが見せたあの去り際の態度。


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