スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
やはり気のせいだったのだろう。
たまたまそんな風に見えただけだと胸を撫でおろし、洗面所の鏡の前に立つとメイクを落として肌を軽くする。
疲れや不安も一緒に落とすよう、そのまま入浴も済ませて。
村瀬さんの手料理に舌鼓をうった後はリビングで識嶋さんの帰りを待つ。
テレビを点けて、ちゃんと見ていたのは最初の10分だけ。
ソファーの上で膝を抱え、着心地のいいギンガムチェックのルームウェアに身を包んだ私の頭の中に今あるのは、パーティーの夜のこと。
識嶋さんと、キスをしたこと。
どこまでがフリで、どこまでフリじゃないのか。
キスをされたのは、優花ちゃんが見ていることを知る前で、好きだという囁きを受けたのは、優花ちゃんの視線を感じてから。
それなら、キスは識嶋さんの意思で、言葉は……演技?
『……これは、お仕置きか何かですか?』
『……違う』
あの時のやり取りと反応、今までの言動と最近の態度を思い起こしてみる。
恋人という設定が不透明なフィルターをかけてはいるけれど、真面目な彼の性格を考慮してシンプルに考えてみれば、やっぱり”もしかしたら”と思えるわけで。
そうであれば、凄く凄く嬉しい。
でも、そうであるならば、私は気付かない振りをしなければならない。
知らない振りをして、全てが終わったらここを出て行く。
それで私たちはただの上司と部下になるのだ。