溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~

「ん」
 
くすぐったくて身をよじった瞬間、廊下の隅に置きっぱなしだった自分のカバンを蹴ってしまった。

はずみで中身が飛び出る。リップバームがころころとフローリングを転がっていく。私は動きを止めた。

「え……」
 
カバンの口から、封筒が飛び出していた。色合いといい厚みといい、どこかで見たことがある。これは……。
 
瀬戸くんがそれを見ておもむろに拾い上げる。一センチくらいの厚みがあるそれは、封がされておらず、開け口から中身が丸見えだ。

「それ、さっきの……」
 
突き返したはずなのに、どうして私の荷物に? 
 
まじまじと封筒を見ていると、彼がふいに目を伏せた。

「本当に、受け取ったんだ……手切れ金」

「え!?」
 
唖然としてしまった。

どうしてそれを知ってるの? というか――

「待って! 私は受け取ってない」
 
はっきり否定したのに、瀬戸くんは顔を上げようとしない。聞き取りにくい声でぽつりと言う。

「光希のカバンから出てきた」

「違う、本当に知らないの! ねえ生吹さん聞いて、私は」
 
彼がふっと顔を上げた。

澄んだ目が、悲しげに揺れている。封筒を私に押し付けて、彼はうめいた。

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