溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「光希、引っ越さないか?」
ドライヤーのスイッチを切ったところで、そう言われた。
ベッドに寄りかかりながら流れ作業のように漫画のページを捲っていく瀬戸くんを、まじまじと見つめる。
「ど……どうして?」
「どうしてって……」
大学を卒業してから住みはじめた八畳一間を、私はぐるりと見回した。
「やっぱり狭い?」
今は多少生活の余裕があるけれど、初任給をもらった頃は身の丈に合わない広さで、実のところ極貧生活を送っていた。
八畳ある1LDKの家賃を、私はわりと頑張って支払ってきたのだ。
「る……瑠璃さんの家の、クローゼットサイズだもんね……」
声がこわばった。
「そうじゃなくて」
瀬戸くんは隅に寄せたローテーブルに読みかけの漫画を置く。
「ふたりで部屋を借りないかって言ってるんだよ」
「え……でも、ひとり暮らししていいの?」
杏子さんの顔を思い浮かべていると、瀬戸くんはぺろっと舌を出した。
「ひとりじゃなくて、ふたり暮らしだし」
言葉を失っている私に「というのは冗談にしても」と彼は続ける。