溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~

「光希、引っ越さないか?」

ドライヤーのスイッチを切ったところで、そう言われた。

ベッドに寄りかかりながら流れ作業のように漫画のページを捲っていく瀬戸くんを、まじまじと見つめる。

「ど……どうして?」

「どうしてって……」

大学を卒業してから住みはじめた八畳一間を、私はぐるりと見回した。

「やっぱり狭い?」

今は多少生活の余裕があるけれど、初任給をもらった頃は身の丈に合わない広さで、実のところ極貧生活を送っていた。

八畳ある1LDKの家賃を、私はわりと頑張って支払ってきたのだ。

「る……瑠璃さんの家の、クローゼットサイズだもんね……」

声がこわばった。

「そうじゃなくて」

瀬戸くんは隅に寄せたローテーブルに読みかけの漫画を置く。

「ふたりで部屋を借りないかって言ってるんだよ」

「え……でも、ひとり暮らししていいの?」

杏子さんの顔を思い浮かべていると、瀬戸くんはぺろっと舌を出した。

「ひとりじゃなくて、ふたり暮らしだし」

言葉を失っている私に「というのは冗談にしても」と彼は続ける。

< 202 / 205 >

この作品をシェア

pagetop