君に溺れた
「涼にぃ、どうしたの?うちに来るなんて久しぶりだね。上がって。今お茶入れるね。」

「気にしないで。楓さぁーうちに居候してた子知ってるよな?」

「・・・知ってるよ。」

「今日急に出ていったんだよ。何か知らないか?」

「・・・久しぶりに来たのに。」

「?楓?何か知ってるのか?」

「私が出ていくように言った。」

「!!?何でそんなこと?」

「何で?そんなの涼にぃのためだよ。未成年の子を家に居候させてるなんて大学に知られたら大変じゃない。あんなに頑張って勉強してお医者さんになったのに、涼にぃのキャリアに傷がついたら困るでしょ?」

「そんなの楓には関係ないだろ!?真凛は?どこにいるか知ってるなら教えてくれ。」

「知らない。涼にぃ、いい加減にしっかりしてよ。あんな素性がわからない子のことで怒るなんて涼にぃらしくないよ。」

「お前はあの子が可哀想に思わないのか?失踪しても家族の誰からも捜索届けも出してもらえない。あの子はひとりぼっちなんだよ。」

「同情で涼にぃの気を引いてるしたたかな子だよ。涼にぃしっかりしてよ。あの子は赤の他人だよ。涼にぃがそこまで面倒みる必要ないよ。」

「赤の他人か・・・。確かにそうだな。」

楓が俺にしがみついてくる。

5年前、楓と半年付き合った。

インターンの俺は今より過酷な勤務を強いられて楓とゆっくり過ごすこともできずに結局、楓が他に男を作って別れた。

「涼にぃ、よかった。ねぇ、今日泊まってく?うちの親、旅行でいないの。昔みたいに。ね。いいでしょ。」

「・・・帰る。」

「涼にぃ、お願い。」

「・・・楓、俺たちの関係は何年も前に終わってるだろ。俺はお前とよりを戻す気はない。」

「・・・いや。涼にぃ、お願い。前みたいに抱いて。お願い。」

「楓、無理だよ。俺、自分の気持ちに気づいた。俺は真凛が好きだ。妹のように思ってきたけど、今日わかった。真凛がいなくなって、俺は心底辛い。それは、妹だからじゃない。女として俺は真凛を心から愛おしい。」

楓の家を出て、俺は真凛を探した。

そんなにお金を持ってないから、遠くには行ってないはずだ。

真凛、頼むから帰ってきてくれ。

俺はお前がいないと苦しい。
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