君に溺れた
side~山田可南子~
一ノ瀬係長と出会ったのは今から8年前。

警視庁のキャリア組で所轄の係長として、○○署に来た。

会った瞬間、ときめいた。

ときめいたのはきっと私だけじゃない。

女性警官のほとんどが好意を抱いた。

背が高くてさらさらの黒髪を整髪剤でまとめている。

キリッとした大きな瞳に高い鼻、シャープな顎。

見た目も破壊力抜群だけど、私が一番惹かれたのは声。

とにかく優しい口調で、落ち着いた雰囲気。

所轄のワイルドな刑事を見慣れているからか、一ノ瀬さんのスマートで優しい物言いに惹かれていた。

配属されてからしばらく一ノ瀬さんを口説き落とそうと、女性警官たちは必死になった。

毎日アプローチ合戦が繰り広げられた。

でも、どんなに綺麗な女性にアプローチされても、誰一人として一ノ瀬さんの目に留まる人はいなくて、配属から半年にはホモ疑惑が女性の間で噂になっていた。

みんなが、諦めかけていた。

でも、私は知っている。

たまたま一ノ瀬さんが同級生と飲んでいる席に居合わせたことがあった。

飲み会の席でも一ノ瀬さんはクールで静かにお酒を飲んでいた。

同級生の一人が一ノ瀬さんに話しかける。

仕事中は絶対に見ることが出来ない一ノ瀬さんの笑顔を見て私はますます惹かれていった。

一ノ瀬さんはどんなに綺麗な女性でも誘いに乗ることはない。

だから私はひたすら一ノ瀬さんから誘ってもらえるように努力した。

仕事は勿論、自分磨きを怠らない。

一ノ瀬さんの目に留まる女性になるよう努力してきた。

その介あって、私は一ノ瀬さんが一番親しげに話す距離を長年かけて築いていた。

でも転勤が決まり、このままじゃ接点がなくなってしまう。

だから私は告白した。

まさか彼女がいるなんて思わなかった。




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