偽りのヒーロー




「あ! おい紫璃ー。どこ行ってたんだよ! もう放課後だぞ」



 やっと教室にやってきたかと思えば、不機嫌そうにカバンを机の上に置いた。

手早く帰り支度をした紫璃が動かなくなったのを見て、レオは不思議そうに首を傾げる。椅子に背を持たれた紫璃を尻目に、窓から「ミッツ〜!」と大きな声で手を振っていた。




 無造作にカバンを手に持つと、急に思い立ったように歩き出した。

早足で歩く紫璃の後を、レオが届いているかどうかわからない愚痴を言いながらついて行く。



「一之瀬」



 校門前で、レオが呼んだその人物を呼び止めた。首を傾げる疑問を抱く顔が、紫璃の目には菜子と瓜二つに見える。

立ちすくみ向かい合う紫璃と未蔓が、今にも決闘に立ち向かう感覚に思え、レオは二人の肩を掴んでファーストフード店へと連れて行った。



「びっくりした。いきなり呼び止めておいて無理やり連れてくるなんて、俺に気でもあるの」



 そういう未蔓の言葉は、菜子にはすぐわかる冗談だったが、紫璃は目を丸くした。

淡々と出る言葉と、表情があまりにも合っていないことに驚いていた。

隣でげらげら笑うレオを見て、未蔓との仲の良さが窺えた。



「あのさ、菜子が、今日、」

「ああ、合コン?」



 言いにくそうにひねり出した紫璃の言葉に、間髪入れず未蔓は答えた。



「トイレの前で会って聞いた。合コン行くからって友達にちょっと化粧してもらって、実験台みたくなってたよ、菜子」

「……嫌じゃないのか、お前。菜子が知らない男と会うんだぞ?」

「別に。ていうか俺、昨日決別宣言されたばっかりだし」



 傷ついた様子も見せず、決別という不穏な言葉に、紫璃は身体を固くした。




 決別、とは言っても荘厳なものではない。夜中にいきなり来た、メール無精の菜子のメール。



『明日から一人で学校行く』



 特段、引き留めるようなことでもない。

菜子の方向音痴があまりにも頼りなくて、一緒に通学していたまでのことだ。「うん」と一言、了承の言葉を返すと、返事はない。


翌朝、普段通りに家を出ると、エレベーターで菜子と鉢合わせをした。約束をしていなくとも、習慣になった家を出る時間。


詰めが甘いと、菜子は肩を落としてのこのこ歩いていた。





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