偽りのヒーロー



「ごめんって! わざとじゃないんだってば! なー、ごめんってばー」



 黙りこくる菜子のまわりを、レオが必死で頭を下げる。

つんとそっぽを向いた菜子のまわりを、レオは犬みたいにうろちょろと駆けまわっていた。



「変態」

「レオ、それはだめ」



 黙りこくる菜子の代わりに、レオは菖蒲と未蔓の総攻撃にあっていた。



 ごみ箱を持って、裏庭のゴミの取集所につかつかと足を運ぶ。

掃除なんてさぼっていたはずなのに、レオは慌てて菜子の後を追っていた。黙ったままの菜子へのせめてお詫びなのか、菜子の手からごみ箱を受け取り歩みを進めた。

教室に戻った頃には二人の間にはおおよそ明るいとは言えない空気。



 謎の重い空気を切り裂くように声をかけたのは、一緒に帰ろうと菜子の教室まで迎えに来ていた紫璃だった。



「あー、菜子来たか……って何、この空気。喧嘩?」

「喧嘩と言えば喧嘩よね」

「レオが菜子にセクハラした」



 菖蒲と未蔓のテンポのいい合いの手ならぬ告げ口が、レオに雷を落とした。紫璃がレオ首根っこを掴むと、まるでプロレスをしているかの如く、その首を締め上げた。



「人の彼女に何してんだ、お前は」

「うわ〜ごめんってば〜。ほら、ちょっとしたアクシデント、的な?」



 バーにして開いた両手を顔の横にひらひらさせて、へらっと笑う。それを見た紫璃はまた、レオに怒りの拳骨を落としていた。



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