偽りのヒーロー



「どこまで着いてくるんすか……」



 ファミレスから出た後も、りん香は紫璃のあとをついてきた。

冬なのに、短いスカート。タイツを履いてるものの、いかにも夏場は露出を好みそうなその風貌。高めのピンヒールのパンプスを履いても、自分を見上げるほどの身長。

……やはり可愛らしい女性だと思う、悔しまきながら。



「これは? 可愛くない?」



 あれよこれよとついてまわるりん香が指さしたのは、ブランド品の、高校生が使うにしてはちょっと高価な化粧品。

色も綺麗なトーンの違うピンクのチーク。パッケージも雑貨にしてもおかしくないくらいの繊細な装飾。

……ちょっといいかもしれない。


けれど、りん香が進言したものだと思うと、購入に踏み切るのが難しい。

その後、いくつかの女性モノが売っている売り場を見て回ったが、初めに見た化粧品のようにピンとくるものがなかった。迷った末にそれを買い、綺麗な包みに時間を割く。

りん香が何やらにんまりと笑っていて、顔を背けるので、忙しい。



「お待たせいたしましたー」



 ネイルの綺麗な売り場のお姉さんから、小さな紙袋を受け取ると、足早に売り場を後にした。女だらけで居場所がない。

わすかながらに同じフロアに一人でいた男性たちも、きっと女性へのプレゼントも買い求めにきたのかもしれない。

それを尻目に横切ると、カツカツと遅ればせながらりん香の足音が聞こえてきていた。



「……足痛いんなら言ってくださいよ。俺、絆創膏とか持ってないんですけど」



 「大丈夫ですか?」と道脇に百合香をエスコートした。

目を丸くしたりん香が、ちょこちょこととガードレールに腰かける。紫璃がしゃがむと、パンプスを履いた踵から、じんわりと血が滲み出ていた。



「俺、コンビニ行って来ますから、動かないでくださいよ」


< 265 / 425 >

この作品をシェア

pagetop