偽りのヒーロー



 ジャリ、と靴を踏みしめる音がすると、「帰るの?」「めっちゃ降ってるよ?」と、玄関前に佇む友人が次々と声をかける。

さらに暗さを増した空を見て、ドアを押した。



「大丈夫」



 ニッと笑う菜子は、軽口を叩くようにピースサインを出した。

雷の光に照らされて、「検討を祈る」と後押しする友人たち。笑い合って顔を見合わせると、カバンを頭の上に掲げて、靴をどろどろに汚しながら駅に向かって駆けていく。

白い夏服のセーラー服が、暗い外の景色の中に浮かび上がっていた。



「菜子、風邪ひかないといいね」

「うん、本当に。ってか、あれ、もう一人誰か走ってない? 誰だろ」



 菜子を追うように、地面の叩きつける雨の中、一人の男子生徒が背中を追う。

菜子のように、カバンを頭上に掲げるわけでもなく、日常のように肩にかたカバンを揺らして、とことこと小走りで駆けて行った。



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