偽りのヒーロー



「……見てたの?」

「うん、ごめん。レオが隠そうとしてたみたいだったから、なんか、言いにくくて」

「知らないふりしてたのに、見ちゃったの……?」

「……そういうことに、なっちゃうね」



 言おうとしたけれど、言えなかった。その一言に尽きる。

それが、昨日あらぬ形で明確になってしまったのだ。言葉にしてしまったら、誰かに話してしまったら、現実が突きつけられてしまいそうで、決心がつかなかっただけなのだ。



 昨日、紫璃と一緒にいた女性は、本当に可愛らしい人だった。そして、纏う雰囲気も、……香りも。

甘い、甘い、女の子のものだった。



 どこかで嗅いだ覚えのある香りだと思った。

紫璃からの連絡から目を遠ざけるために、携帯の画面を伏せて置いた。けれどやっぱり紫璃のことを考えずにはいられなくて、クリスマスにもらったチークを、何の気なしに取り出したときに思ったのだ。



あの日、プレゼントを受け取った日に、ふわりと香った紙袋の香り。



昨日の女性と、同じ匂いがしていた。それが頭の中で結び付いたとき、鈍器で叩かれたみたいな衝撃だったのは、今、初めて、菖蒲に打ち明けた。


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