偽りのヒーロー

action.8





「あの子だよ。一之瀬くんとつき合ってるの!」



 短い5分の休み時間にトイレに立っただけでも、女生徒たちの視線が突き刺さる。

「違います!」と言えたらいいのに、菜子にはそれができずにいた。いっそのこと、直接聞いてくれれば否定のしようもあるはずなのに。
あっちでこそこそ、こっちでこそこそ、好奇の目に晒されながら、うんざりとしていた。



 通常通りの授業形態に日常が戻ると、中弛みか気の抜けた空気が漂っている。

暗くなる空気の冷える秋の気候は、呆れるくらいに晴れ晴れと太陽が顔を出している。今日は天気もいい、外でお昼を過ごすのも悪くない。そんなふうに呑気な思考が、菜子に歪な鎖をかける。



「菖蒲ー、今日外でお昼食べよ……あれ……?」



 菜子の声は確かに菖蒲の耳に届いていたはずだ。声を潜めたわけでもない。ふい、と聞こえなかったかのように席を立つ菖蒲の手には、お弁当箱がぶら下がっていた。



 菖蒲の後を追いかけるのは躊躇われて、一人、菜子は人気のない場所でお昼をとった。

……長く感じた。お弁当の味が噛みしめても噛みしめても味がしないように思えた。



何か、菖蒲に不快な思いをさせるようなことをしてしまったのだろうか。ぐるぐると思考を巡らせていると、どんよりと暗くなってしまった。


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