新生児マス・スクリーニング―赤ちゃんの命を救う話を、ドクターから聞きました―


私の様子を観察していた彼は、こともなげに私のことを見抜いた。



「何も胃に入れずに走っておられるんでしょう? 夕食は、早めに済ませることを心掛けている。もちろん夜食もしない。違いますか?」



「全部、合ってます。走るのも、ダイエットしたいからで」



「適度にスリムな体型を維持するために運動するのはいいことですが、飢餓状態の体に負荷を掛けるのはいけませんよ。エネルギー不足で、具合が悪くなったんでしょう」



「たぶんそうだと思います。すみません、たいしたことじゃないのに、ご迷惑をかけてしまって」



「迷惑なんかじゃないですよ。僕は医者なので」



「お医者さん、ですか」



「ええ。小石川といいます。小児科医です」



小石川先生は、40代半ばだろうか。


くっきりした二重まぶたの目は大きくて、知性と活力に満ちている。


医者と名乗られて、なるほどと感じた。


端正な顔立ちだけど、微笑んだ口元にえくぼができるのがお茶目だ。



医者の不養生なんて言葉もあるけど、小石川先生は走り慣れた体格をしている。


スポーツウェア姿が爽やかで、ほどよく日に焼けて、健康的な印象だ。



「いつもこのあたりを走っておられるんですか?」



「僕ですか? いや、今は2週間ほどの出張中で、このへんに泊まっているんです」



「出張中なのに、ランニングを?」



「走るのが好きなんですよ。それに、この年になると、すぐに筋力が落ちるから、時間を見付けて、できるだけ毎日走るようにしているんです。医者が元気じゃないと、話になりませんしね」



「素晴らしいです」


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