ハッシュハッシュ・イレイザー
 真理は紫絵里に引き寄せられるように近づいた。

 紫絵里も同じように傍に寄り、そこで自然とお互い自己紹介する。

 発せられる雰囲気が似たもの同士の二人は、すぐに気が合い、仲良くなった。

 紫絵里は落ち着いて、気遣うように笑みを絶やさず、そして時折、ずり落ちてくるメガネを頬に触れる仕草で軽く抑えていた。

 真理も控えめで、紫絵里を優先的に扱って大切にしていた。

 そんな二人が親友にならない訳がない。

 クラスの中では大人しく無力な脇役かもしれないが、この二人の友情は固くゆるぎなく、二人の間では世界の中心になれるくらい赤毛のアンとダイアナを演じてしまいそう。

 だが、その陰でそんな二人を馬鹿にするクラスメートが居るのは、どこにでもある仕方のないよくある出来事。

 心無い意地悪さを持たなければ生きていけないような、そんな尖がったきつい女の子たちの群れ。

 思春期のバランスの崩れと、その場の雰囲気で自分を主張しないと気が済まないような、粋がった態度。

 悪意も自然に伴い、人を見下して、自分の自尊心を保つ。

 比較して、自分の下にいる人間を定めてやっとクラスで生き残れると思っているような、悲しい人間。

 きれいごとばかりがある世界じゃない。

 特にクラスという狭い空間に不特定多数の人間が集まれば、抑えられない気持ちにはけ口を求めるのは自然の流れ。

 醜い心は誰にもあるから、こういう人間が常に生まれる。

 でも、まだ心に思っているだけなら、それでいいけど、態度に出て露骨に手を出して来たら、覚悟するしかない。

 戦いの火蓋が切られたら、もう逃げられないのだから。

 それまでは、何も起こらないようにひたすら祈るしか方法はない。

 そんなスレスレの不安定なクラスの界隈に、真理と紫絵里は位置していた。
< 9 / 185 >

この作品をシェア

pagetop