榛色の瞳を追って

喫茶店とあっちゃん

「ええと、こっちがランチで、昨日のライスカレーがディナーです」

「一晩おいたカレー、とても美味しい。 忙しいのに作らせてすみません」

「いえ、こちらこそ。 仕事を中途半端にしてしまってごめんなさい」

今日も、陳さんの家に食事を作りに行きました。 でも、今日はいつもと違うところがあります。

「茉莉(モリィ)から聞きました、大丈夫です。姥姥お祝いしてください」

「モリィ? ラオラオ?」

たまに中国語の混ざる彼の言葉は、よく分からないこともありますが、”お祝い”と言っているので見当はつきます。 そこに、横から声が飛んできました。

「モリィは阿莉(茉莉)のこと、ラオラオはお前のばあさんのことだ、女」

「そうなんですか、教えてくださりありがとうございます」

相変わらずぶっきらぼうな宗一さんですが、陳さんの中国語をいちいち教えてくださるので、根っからの悪人という訳ではなさそうです。 ですが、私も最近までそのことに気づけずに怯み上がっておりました。

以前、茉莉さんに聞いた所によると”阿莉”は中国語で”茉莉ちゃん”といった感じの呼び名になるそうです。 普段は硬派で厳しい方に見えるので、意外とかわいらしい面もあるのですね。
…でも、私はいつも女と呼ばれています。 名前で呼ばれた記憶はありません。

一度くらいは、名前で呼ばれたいと思う今日この頃です。
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