榛色の瞳を追って
「へえっ、ちさちゃんが作ったのかい?」

凄いねぇ、凄いねぇと言いながらも、「でもどうやって食べたら良いんだろうねぇ」とぼやいていました。 そういえば祖母は洋食屋さんに行かないので、洋食自体見慣れないのかもしれません。

「フォークで食べたらいいじゃん。 うち持ってきたよ」

そう言ってカトラリーセットを出したのは、妹のあさ。 いつの間に持ち出したのでしょう。

「ふぉーく?…ああ、突き匙のことかい。 こんな小さい物もあるんだねぇ」

その場の流れであさが祖母にフォークの使い方を教えることになり、トルテを切り分けたのはこれまたいつの間にか台所から庖丁を持ち出したらしい昭男でした。 茉莉さんはトルテに興味を示した麗華ちゃんをあの手この手でなんとか興味を逸らさせようとしています。 姪にはトルテが甘すぎるらしいです。

「麗ちゃん、これ食べるのいけないネ。 麗ちゃん病気になるよ」

気がつけば、私と正男だけが手持ちぶさたになっていました。

「おばあちゃん、切れたよ」

「まあまあ昭男ちゃん! そんなものどこから持ち出したんだい? 危ないよ」

「台所から。 今片してくるね」

持ち方にも分かりやすい危険は感じられず、彼は本当は女の子ではなかろうかと思います。 だって、『男子厨房に入らず』と言って兄は台所に入ろうともしないのですから。

明治生まれの兄と大正生まれの弟は学校で学ぶことも違うのでしょうか。

「はー、昭男ちゃんは何でも出来るんだね。 おばあちゃんは驚いたよ」

「この間は、ほつれたボタンの直し方なんていうのも聞いてきたのよ」

「開明の子だねぇ」

自宅で9人家族が揃った食事はいつもワイワイガヤガヤと騒がしく楽しいのですが、おばあちゃんの家で取る食事も負けず劣らず、笑い声と会話に溢れたものでした。
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