白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 僕の手首をギュッと攫み、人気の少ない校舎横の中庭に連れ出した。

 そして、相変わらずきつい口調で

 「貴方うちの学生、何処の学部なの。どうして沙織に付き纏うの。どうして……」

 彼女はまるでマシンガンの様に次々と僕に質問を浴びさせる。

 止め処もなく話す彼女に

 「ちょっと待った。君何か勘違いしてない」

 彼女の攻撃を止めた。

 「か、勘違いって、何よ。それはそうと、貴方は誰なの」

 「僕は、亜咲達哉。この大学の文学部3年。僕は……」

 彼女に、事の経緯を話した。


 昨日、偶然今村沙織さんに出会い、僕の書いた小説を読んでもらって、彼女が同じ大学の教育学部に居るって言ってたから、その、挨拶にでもと思って連絡もしなかったのは悪かったけど、会えるかと思って探していた事を。



 それを訊いて彼女は腹を抱えて


 「ハハハ、そ、それじゃ貴方だったのね、沙織が言っていた小説家の卵さんって」

 「え、沙織さん何か言っていましたか」

 彼女はさっきまでのきつい口調から、サバサバとして何処となく人懐っこい話し方で

 「ええ、昨日の夜にSNSで沙織が言っていたわ。今日、何だか一緒にいると、とても暖かく感じる小説家の卵さんに出会ったって」

 「えっ、それって」

 僕は少しきょとんとして


 「面白いお話しを読ませてもらったて言っていたわ。あの子、本読むの好きだから、沙織が一目見て読みたがる小説を書く人って、どんな人かと思ってた」


 そうなんだ彼女、今村沙織さんはただの興味だけで、僕の小説を面白いって言ったんじゃないんだ。

 そう彼女が想ってくれた事がとても嬉しかった。

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