白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 そして、彼女の恋愛講座が始まった。

 無論、彼女の今の恋も含みながら話してくれた。

 意外にも恋愛と言う事について、男はかなり厚いオブラートを巻いている様だ。男から見て恋愛は、女性とは違う感情を持って行動している。それは初めからもう終わりまでを一つのものとしているのだと。

 それを言葉で表せば、男は「恋愛をする」に対して、「女は恋愛をしています」の違いがある。男性は好きな人が出来た時から恋愛と言うものが始まり、女性は、物心ついた時から恋愛が常に続いている。

 確かに人によって考え方や感情の個人差はあるけれど、男は恋愛と言う事をある種の夢物語としてイメージしているのではないかと彼女は言う。

 それが恵梨佳さん曰くかなり厚いオブラートだと。

 それに対して女性の方は、これは自分の考え、恵梨佳さん自身が今まで体験してきたことを踏まえて話してくれた。

 恋愛で夢を想うのは、あくまでも理想を追うことであって、自分としては恋愛は現実の自分の生活の一部であると。

 常に恋愛をし続ける女性は、その成長と共に恋愛と言う意味を変えている。若い時期に出会った恋愛は、表面の感情だけで動くことが多い。でも女性の恋愛は常に成長し変化している。

 もちろん男性も感情的に成長はするが、恋愛を一つのものととらえている男性の方は、その成長は女性とは離れたものになると。そこで生まれる温度差が気持ちのズレなどに現れるのだと。

 そして体の面から言えば、男性は清通が行われ、子孫を残せる精子が出来ることで相手を探し、女性は、成熟した卵子を作り得る状態になって恋愛感情が高ぶるんだと。そして女性の体も大きく変化をする。外見的に骨盤が広くなり、そして胸が大きくなる。自分の体を使って、自分の子孫を残したい男性を待つのだ。

 二人共この話題で盛り上がり、そこそこ酔いが廻っていた。


 「私は早かったからなぁ初体験」


 「何時だったんですか」

 「中2の時。付き合っていた高校生の彼と」

 「え、中学の時ですか、早いですね」

 「その時、私も彼の事物凄く好きだったから、迷うこと無かった。今思うと大変だったなぁ」

 僕らは食べるものを食べ尽くし、店を出た。支払いは恵梨佳さんが支払ってくれた。

 恵梨佳さんのアパート(後で分かったが、マンションだった)までそこから歩いて十分ほどだと言うので歩いて向かった。

 歩きながらも僕たちは、恋愛について話をしていた。

 「あの頃は若いと言うよりも幼かった。だからどんどんセックスに溺れていった。もう愛だの好きだのなんて関係なかった。ただする事で安心して、快楽を貪ってたのね」

 あの恵梨佳さんからは想像もつかない告白だった。


 「だからかも知れない、それから男って抱かせてやればいいもんだと思うようになってたの。でもね大学を卒業してこの会社に入社してから、ううん、彼の下で働くようになってから少しづつ変わっていったの。彼私に言ったの、そんなことではこの仕事はやらせられないって。

それってクビって事だと思った。でもそれは違った。彼は私に優しく色んな事を教えてくれた。時には物凄く厳しく、打たれた事もあった。それでもちゃんと意味を説明して私に納得させた。私は、彼がいたから仕事もやってこれたし、自分を変えることも出来た。だから私は人生を賭けて彼を愛すると決めたの」


 「恵梨佳さんも色々あったんですね。でも、僕も解る様な気がします。支配人の優しさが」

 すると彼女はにこっとして

 「ねぇ、厨房志願の君がどうしてフロアになったと思う」

 「多分、フロアが人手不足だったんじゃないですか」

 「うん、確かにそれもある。でも支配人が、イケメンは店の看板になるって。だからフロア」

 僕は少し照らながら

 「そんなぁ。僕はそんなイケメンじゃないですよ」

 「うんん、私にとっては十分イケメン」

 そう言って恵梨佳さんは足を止めた。

 「ここ、私のアパート」と少し無邪気に

 見るとそこはアパート何て言えない、4階建てのマンションだった。

 「ここって、マンションじゃないですか」

 「年数も古いし、駅から少し離れているから格安物件なの」

 そして僕を見つめ。


 「亜咲君、貴方は自分の事、思っているほど見えていないと思う。貴方は自分が想っている姿より、ずっと素敵な姿をしているわ。外も内もね」


 ふっと彼女の柔らかい唇が僕の唇と重なった。


 「あなたには、なんでも言えて不思議と心を開いてしまう。それってあなたの不思議な力なのかもしれない」

 彼女は僕から離れ

 「それじゃ、今日はありがとう。亜咲君小説頑張ってね。いつでも協力するから」
 恵梨佳さんは、2階の自分の部屋へ向かった。

 彼女が部屋にたどり着いたころ合いを見計らって、僕は駅へと歩き出した。


 次の日、バイト先で

 「おはようございます」

 「あら、亜咲君おはよう。今から」

 「はい」

 「それじゃ、よろしくお願いします」

 そこには、いつもと変わらない恵梨佳さんが、優しく微笑んでいた。

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