甘言師、臥雲旦陽の甘い毒

 「…十分か十分でないかは他人がきめる。あんたはまだ全然苦しんでいない。奥さんの苦しみを想い知れ」

 「…もう十分に…私は」

 「まだだ、足りない」

 「逃げたんだ、疲れた…とても」

 「だからどうした。そんなもの奥さんの苦しみの一割にも満たない。殺したんだろう?どうやってころした?肉を抉ったか?骨を折ったのか?それもと首をへし折ったか?」

 「やめてくれ」

 「人間の命が止まった瞬間、何を感じた?どう思った?もう戻れないと思ったか?殺人者として永遠に生きると思うとどうだ?」

 「やめてくれぇ…!おれが!俺がわるい、俺がわるいんだ!…つい…出来心で…うわきした…バレてしつこく追求されるだけでなく…あいつ…俺の相手に電話して関係を終わらせるようにって…だから…おれは…包丁でさした・・・ああ、何度もさしたんだ!痛いだろうな、痛いようにしたんだ、少しでも長く痛がるように!何度もさした!だってあいつが!俺を自由にさせてくれないから!俺はわるくない、そうだろう!?わるくないよな?あいつが悪いんだ」

 小野は半狂乱になりながら、一人で語っていた。

 同じ言葉を何度もはき、くり返し同じ言葉をなぞる様に続けた。

 「おれがわるい、いいやあいつが悪いんだよ!俺のせいだ…先に俺が浮気をしたから…でもあいつ!電話なんかする必要あるか?殺されて当然だ!」

 小野は泣きながら、一人で語り続けた。

 
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