雪の降る日に、願いを消して
そう思っても簡単に歩調を緩めたりはしなかった。


黒板に想いを書かなくてはいけないのだから、ぼんやりしている場合ではない。


手早く上履に履き替えて階段を上がって行く。


一人分の足音が校舎内に響き、いつもと同じ風景なのにやっぱり少し違うものに見えた。


たった15分早く行動するだけで、まるでパラレルワールドに迷い込んでしまったような奇妙な感覚があった。


教室に到着し、中を覗き込む。


下駄箱で確認した通り、教室の中には人の姿がなかった。


ホッと胸をなで下ろし、自分の机に乱暴に鞄を投げた。


白いショークを右手に持ち、黒板の前に立つ。


1度、大きく深呼吸をした。


朝一番の教室の空気を思いっきり吸い込む。


冷たい空気の中に、生徒たちの家庭の匂いが混ざり合っているのがわかる。


みんながここへ来る前に、終わらせなきゃね。


そう思って黒板にチョークを走らせた。


駿の名前を書いている時、自然と自分の頬がほころぶのを感じていた。
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