アイ・ラブ・ユーの先で


7月分のシフト表は昂弥先輩本人からもらっている。

いつでもすぐ見られるよう写真に撮って、スマホのなかに入れておいてよかったと、夜道を急ぎながらこんなに噛みしめる日が来るとは思っていなかった。


星も、月も、今夜は見上げている余裕がない。

つま先だけを見つめながら、店の名前と電話番号、住所だけを頼りに、はじめて行く道をいくつも進んだ先で、やっとその看板を見つけた。


「――いらっしゃい」


カラン、と頭上で軽快に鳴ったベルの音に反応して、カウンターのむこう側にいたいかにもという感じのバーテンダーが、こちらに視線を移す。

愛想のいい笑顔。
目が合うなり、それが、少しだけ気まずそうに歪んだ。


「あーっと、ごめんね、うちは未成年はダメで」

「水崎昂弥……は、いますか」

「え? 昂弥?」


頭のてっぺんから足先まで、さまざまなモノサシで測定するみたいにまじまじ見られた。

考えなしにノコノコわたしが現れたことによって、詐称して働いているらしい先輩の実年齢がバレたらどうしよう、と一瞬だけ不安がよぎったけど、お兄さんはうなずいて微笑んでくれた。


「ちょっと待ってね。あ、こっち、よかったら座る?」


いきなりカウンターに通される。

まだ早めの時間だからか、お客さんはまばらだったけど、決して居心地は良くないので端っこの丸椅子に腰かけた。


あまりに手持ち無沙汰で、棚にビッチリならんだお酒の瓶を、目線だけでひとつずつなぞった。

銘柄なんてひとつもわからない。
種類さえ、よく知らない。


こんなところでアルバイトをしている先輩は、お酒を飲むこともあるのかな。


わたしの知らない味。

きっと、わたしの知らない世界だ。

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