アイ・ラブ・ユーの先で


「え、見たって、なにを?」

「“1年4組の阿部佳月が、水崎昂弥と手をつないで歩いてるところ”」


あ――そういえば。


思い当たるふしがまったくないわけではなかった。

浜辺からパーキングまで、そういえばきのう、水崎先輩に手を引かれながら移動した気がする。


わたしのその反応を肯定と受け取ったのか、結桜はますます険しい顔をして、やめといたほうがいい、とマジなトーンで言ったのだった。


「噂ね、どうやら本当みたい」


彼のあまりよくない印象を決定づけているらしい、“噂”とやら。

その単語をどうしても上手く飲みこめなくて、またもやわたしは、結桜に疑われている先輩との関係性を否定しそこねてしまった。


「前にも言ったことあったよね? やばい連中と関わりがある……とか、そういうの」

「ああ……」


だけど、それは、どうだろうなあ。

きのう、おうちだというお洒落なカフェにおじゃまして、彼のお父さんらしき人にも会って、おいしいプリンをごちそうになって、バイクのうしろに乗っけてもらって、家まで送ってもらったけど、ぜんぜん、噂どおりの感じには見えなかったけどな。


「っていうのもね、水崎先輩……おうちが、いろいろと複雑みたいで」


擁護するつもりでもないけれど、感じたままの印象、そんなに悪い人でもなかったということ、伝えようとしたはずなのに。

その言葉によって、思考のすべては一瞬でフリーズしてしまった。

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