漂う嫌悪、彷徨う感情。

『ごめんごめん。 美紗ちゃんが口割らないから怒ったフリしただけだよ。 全然怒ってないから。 美紗ちゃんから電話来たの、めっさ嬉しかったから。 速攻で掛け直すくらい嬉しかったから。 それより本当に大丈夫なの??』

日下さんが優しい声色に戻った。

「本当に大丈夫です」

『本当に??』

「本当に。」

『本当??』

「・・・・・・」

優しくされたくて電話をしたくせに、本当に優しくされると、気も涙腺も緩む。

ワタシには、勇太くんに『会社を辞めるまでの間はワタシの事を好きでいて欲しい』などという低俗な都合の良い欲求があった。 あんな事をしておいて、自分から勇太くんの気持ちが離れていかないわけがないのに。 それなのに、勇太くんの気持ちが小田ちゃんの方に向いてしまう事が、耐え難かった。

勇太くんに軽い女だと思われたくなくて、日下さんとある程度の距離を保っていたかったけれど、勇太くんと小田ちゃんの間に距離がなくなっているのなら、ワタシの薄汚い願いなど何の意味もないのだろう。


「・・・・・・気は変わらないって言ってたくせに。 日下さん、至れり尽くせり上げ膳据え膳、豪華海鮮三昧の温泉旅行、ワタシもご一緒させてもらえませんか??」

『・・・そんなの、いいに決まってるでしょ。 一緒に行こう、美紗ちゃん』


どこか遠くへ。 現実逃避をしたかった。
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