漂う嫌悪、彷徨う感情。

「・・・大丈夫です。 お気になさらずに。 本当に何でもないので。 気にかけて下さってありがとうございます」

必死に平気を装った。 

この人は困っている人を見過ごせない親切な人なのだろう。 だから、変な呼吸を繰り返すワタシを見て救急車を呼びかねない。 そんな事をして騒がれたら、勇太くんの家族に見つかってしまう。 それだけは嫌だ。

「アナタ、この家から出てきましたよね?? オレ、この家の人間と知り合いなんで、呼んできますよ。 ・・・てゆーかもしかして、真琴のお兄さんの婚約者さん?? 確か真琴が『お兄ちゃんが婚約者連れてくる』って言ってたから。 オレ、真琴の彼氏で日下と申します。 ちょうど真琴を迎えに来たところなので、一緒に中に入りましょう」

勇太くんの家を指差しながら微笑む目の前の男の人に、寒気がした。

親切だと思っていたその人が、一瞬にして敵に見えた。
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