漂う嫌悪、彷徨う感情。
自分勝手な婚約者。



---------休みが明けた出勤日。

出社すると美紗は既に自分の席にいて、パソコンに届いていたメールをチェックしていた。

いつもはコンタクトなのに、今日はメガネ姿の美紗。

美紗の瞼は少し晴れていて、眼球も赤くなっていた。

痛くてコンタクトが出来なかったのか、メガネでいつもと違う目を隠したかったのか。

美紗はあれからどれだけ泣いたのだろう。

「おはよう、美紗」

そんな美紗に近寄り話しかけると、

「おはようございます。 佐藤さん」

オレに話し掛けられたくなかっただろう美紗が、バレバレにも程がある作り笑いを浮かべながらオレを見上げた。

美紗とオレの関係は、同じ部署の人間全員が知っている。

だけど、オレらは会社で慣れ慣れしく接したりしない。 職場だから。

でも、挨拶だけは敬語なしで交し合ってきた。 美紗とオレは恋人同士だから。

『おはよう』には『おはよう』を。 『お疲れ様』には『お疲れ様』を。

なのに今日は、『おはようございます』。

美紗がオレと距離を置こうとしていた。
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