漂う嫌悪、彷徨う感情。


いつも通り淡々とした朝会が終わると、美紗に目くばせをし、2人で会議室へ。

美紗は椅子に座らずに、立ったまま気まずそうに床を見つめていた。

そんな美紗の隣に立ってみても、美紗は相変わらずオレの方を見てくれない。

「・・・ねぇ、美紗。 なんで電話出てくれなかったの?? 結婚しないっていうのも本気じゃないよね?? 招待状こそまだだけど、もう部署のみんなに言っちゃってるじゃん。 『結婚式、来てくださいね』って」

そんな美紗に、薄ら『仕事も関係してます』的な要素を無理矢理織り込み話しかける。

「・・・本当にごめんなさい。 『許してください』って言われても許せるわけないよね。 ・・・電話、出なくてごめんなさい。 全部分かってるの。 何を言われなくても、説明されなくても、勇太くんは何も悪くない事はちゃんと分かっているの。 分かってるけど・・・。 分かっているのに・・・。 どうしても、どうしても、頭に気持ちがついていかないの・・・。
部署のみんなには、ワタシから話す。 ワタシの我儘の結果だから、ワタシが何とかする。 結婚の約束を破ったワタシの事を信用出来ないかもしれないけど、勇太くんに・・・佐藤さんに迷惑は絶対に掛けません。 佐藤さんは何の心配もいりませんから」

美紗は何度も何度も頭を下げ、名前で呼んでくれていたオレを『佐藤さん』と言い直した。

美紗がオレとの間に作った壁をどんどん厚く、どんどん高くして、オレの侵入を拒んだ。

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