恋の歌が響くとき
 
「おい、凛(りん)。お前また適当に歌ってんだろ」



むせ返るような暑さが蜃気楼を描く八月の始め。


照りつける太陽に愚痴をこぼす余裕すらなく、防音ガラスが取り付けられた四角い窓から生ぬるい空気が漂っているであろう真新しい校舎をぼんやりと眺めた。


手に持ったアイスコーヒーのカップを小さく揺らせば、心地よい氷の音がシャープを刻む。


このせまっ苦しい音楽室にある冷房は既にフル回転で稼働しているようだが、外から差し込む日の光でじりじりと室内の温度は上がっていくばかりだった。


そして、部屋の温度が一度上がるたび我らがバンド「リヴァー」のボーカルは歌う気力を失くしていくようで。


「凛、そんなに毎回力入れて歌えないよ!それにこの部屋熱いー」


セミロングの黒髪をさらりと靡かせ、赤系のシャドーが塗られた大きな瞳を潤ませたボーカル――「川辺 凛(かわべりん)」は機嫌が悪いのか、オレンジの頬をこれ見よがしに膨らませている。

 
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