素直の向こうがわ



驚きのあまり、自分が泣きじゃくっているのを忘れて顔を上げてしまった。
そうしたら、教室の扉のところに、河野が立ってた。


どうして――?


「やっぱりまだいたと思ったら、何やってんの?」


廊下の明かりを背に受けて立つ河野の表情は良く見えない。
でも、その声が驚いていることを表していた。その証拠に、そう言ったきりそこに立ちすくんだままだ。


どうして、河野は戻って来たの?


河野の姿を見てしまったら、さらに想いが溢れ出してきて心が余計に乱れて来る。


「……なんで、泣いてる?」


河野の驚きで強張る声で問い掛けられて、自分が今泣いていることを思い出す。
こんな姿を見られたくなくて感情的に叫んでいた。


「どうして戻って来たの? 戻って来たりしないでよ!」

「俺が聞いてるんだよ。何でおまえが泣いてるの?」


私の言葉に構うことなくこちらへと近付いて来る。

< 148 / 287 >

この作品をシェア

pagetop