素直の向こうがわ
驚きのあまり、自分が泣きじゃくっているのを忘れて顔を上げてしまった。
そうしたら、教室の扉のところに、河野が立ってた。
どうして――?
「やっぱりまだいたと思ったら、何やってんの?」
廊下の明かりを背に受けて立つ河野の表情は良く見えない。
でも、その声が驚いていることを表していた。その証拠に、そう言ったきりそこに立ちすくんだままだ。
どうして、河野は戻って来たの?
河野の姿を見てしまったら、さらに想いが溢れ出してきて心が余計に乱れて来る。
「……なんで、泣いてる?」
河野の驚きで強張る声で問い掛けられて、自分が今泣いていることを思い出す。
こんな姿を見られたくなくて感情的に叫んでいた。
「どうして戻って来たの? 戻って来たりしないでよ!」
「俺が聞いてるんだよ。何でおまえが泣いてるの?」
私の言葉に構うことなくこちらへと近付いて来る。