素直の向こうがわ



***


開館と同時に大学の図書館へと来ていた。
春休み中のキャンパスは人もまばらで、図書館もほぼ貸し切り状態だ。

手に持っていたペンを置き、腕時計に目をやる。


「春休みまで勉強? 相変わらず真面目だね」


そこへ、大学の友人が現れた。

大学に入学してからのこの1年、私は、中学時代以来のガリ勉女子に舞い戻っていた。

管理栄養士を目指し、勉強に励む日々だ。


「でも、もう出るとこなの」

「なに? デートとか?」


サークルへ行く途中なのか、テニスのラケットを肩にかけた友人が肩を寄せて来た。


「デートではないかな。でも、今日は大事な日だから。じゃあ、またね」


友人を残して、席を立つ。

そう、今日は何よりも大切な日で、この1年待ち望んでいた日だ。


逸る心を抑えられなくて、気付くと小走りになっていた。
道行く人の流れを押しのけて、その場所へと向かう。


私の頭上にある三月の空は、数日ぶりの快晴だ。
透き通るような青さに勇気をもらってただ前だけを見つめた。


「――徹」


たどり着いた大学の正門をくぐると、人だかりを見つけた。
私はすぐに、その中にいるたった一人の人を見つけてしまう。
一年前と同じ場所に佇む、あの背の高い眼鏡をかけた姿。


「文子」


こちらに向けられたその表情を見た瞬間、再び私は走り出した。


「俺がおまえを迎えに行くって言ったのに」


全然関係ないことを言う河野の声を遮るようにその背の高い身体に抱き付いた。


「おめでと」


胸に顔を埋めながら囁く。


「まだ、俺何も言ってないけど」


呆れたように笑う声が頭上から聞こえる。


「聞かなくても分かる。って言うかもうとっくに分かり切ってる」


信じていた。絶対に合格すること。
河野の腕が私を優しく包み込む。


「文子……」

「ん?」


胸に響く、河野の低くてやさしい声。


「ここまで一緒に歩いてくれて、ありがと」


流れ出た涙を隠すため、私は何も言わずに頷いた。
結局子どもみたいに泣いてしまう私に、その大きな手のひらが降って来た。


――これからも一緒に歩いて行こう。


優しい鼓動とともに聞こえた言葉に、私はもう一度頷く。




ー完ー



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