素直の向こうがわ
でも、電話ボックスで河野を見たとき安心したのは確かだった。
そう言えば私、結局、眼鏡男に「ありがとう」って言ってない……。
胸の中に一つの心残りが落ちて、広がって行く。
「そんなことより、2人はちゃんと仲直りして来たんでしょうね」
それを誤魔化すように目の前の2人をじっと見た。
「フミには感謝してる。ちゃんと話すから。それにしてもあんた、本当にびしょ濡れ」
薫が私の腕に自分の腕を絡めてくる。
いろいろ大変だったけど、2人が笑えたなら良かった。
そして――。
眼鏡男、河野とのことをふと思い返してしまってすぐにやめる。
心の中が河野のことで一杯になっていることには、気付かない振りをしていたかった。