素直の向こうがわ



でも、電話ボックスで河野を見たとき安心したのは確かだった。


そう言えば私、結局、眼鏡男に「ありがとう」って言ってない……。


胸の中に一つの心残りが落ちて、広がって行く。


「そんなことより、2人はちゃんと仲直りして来たんでしょうね」


それを誤魔化すように目の前の2人をじっと見た。


「フミには感謝してる。ちゃんと話すから。それにしてもあんた、本当にびしょ濡れ」


薫が私の腕に自分の腕を絡めてくる。

いろいろ大変だったけど、2人が笑えたなら良かった。


そして――。


眼鏡男、河野とのことをふと思い返してしまってすぐにやめる。

心の中が河野のことで一杯になっていることには、気付かない振りをしていたかった。





< 56 / 287 >

この作品をシェア

pagetop