偽王子と嘘少女
「だからもう、あいつで苦しむな」


「紫水くんっ…紫水くん……」


ただ好きな人の名前を連呼しながら、別の男の胸で泣く私。


客観的に見たら、ものすごく最低だよね。


藤堂くんに対しても、紫水くんに対しても。


「ごめん、もう…大丈夫だから。ありがと」


冷静になった私は、胸から出ようとする。


だけど、一度離れたその腕は、後ろから抱きつくようにして、もう一度私に絡み合う。


「……っ!? と、藤堂くん?」


「………行くな」


「えっ」


腕がきつくなって、少し苦しい。


だけど、そんなことが気にならないくらいに藤堂くんの心音が聞こえる。


私も同じように高鳴っているのかな。


< 189 / 273 >

この作品をシェア

pagetop