赤い花、散らさぬように


確かに高校はそこそこ頭の良いところには行ったけれど、所詮は高卒だ。教えられる範囲なんて限られている。


しかも中学で習ったことなど、ほとんど忘れかけていた。高校を卒業してからもう五年が経つのだから、当たり前だ。


彼女に教えるために、またイチからこっそり勉強し直すという、我ながららしくないこともした。



すべては、彼女だから。



本来、女のためになんて、てこでも動かない俺。


そんな男を今動かしているのは、八つも年下の女の子。



自分が信じられなくて、でもそういう自分が嫌いでもなくて。


俺は結構今の職場を気に入っているんだなあと、他の奴らと邸へ戻りながら思った。







「紘之さん。今日は数学を教えて欲しいです」



夕食までの間、部屋で待っていると、教科書類を抱えた紅が襖を開けた。


畳の上に置かれたちゃぶ台に頬杖をつきながら、紅を見上げる。




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