彼女が指輪をはずすとき
『私は藤堂さんの上司の亘と申します。こちらこそ藤堂さんにはよく働いてもらってます』

『で…では、私たちはこれで失礼します。また月曜日に』

謎の挨拶を二人が交わしたあと、しんとした気まずい空気が流れ始め、私ははやく逃げるようにその場を立ち去った。

次の日の月曜日には亘さんに会社でそのことをつつかれ、そのあたりから指輪を会社でもつけ始めたっけ。
今までおおっぴらにしてこなかった彼氏の話も少しずつするようになったのだけど、朝日が亡くなったことは会社の人には今でもずっと話せずにいた。

でも唯一、その事を知っているのが亘さんだった。
朝日が亡くなった直後、私は今と同じように仕事に集中できないでいた。
それを見越した彼は、屋上に私を呼び出し今と同じように唐突に質問を投げ掛けてきた。

『お前さ、何があったの?』

私は何も言わず下を向いていた。

『彼氏と喧嘩したとかか?でもお前、そんなことで上の空になるやつじゃないもんな』

自分だけじゃ抱えきれなくなって、抑えきれなくなった感情が溢れだし目から涙がこぼれ落ちた。

『彼…交通事故で、死んじゃったんです』

私がそう言うと、亘さんは驚いた顔をして言葉を失っていた。
私は一度涙がこぼれると、止めようと思うのに止められず涙がとめどなく流れた。

『朝日のように笑って生きていくって決めたのに…朝日が居なかったら私、どうやって笑えばいいかわからないんですっ…』

私を笑顔にするのは、いつも朝日だった。
涙を流すのも、怒るのも、悩むのも、幸せだと感じるのも朝日が居たからで、全ての感情を共有してきた。

でもいきなり一人になって、私は心に大きな穴がぽっかりあいてしまった。
朝日に出会う前は一人で過ごしていたはずなのに、今は一人での過ごし方がわからない。
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